|
『くらやみ小学校』発売 小学館 2025年12月
|
|
----------------------------------------- 今も昔も、学校で、誰かが泣いている。 「先生」の衣をまとった怪物、「教育」の名を借りた差別、 給食、プール、たてぶえ、あの因習が許されてしまった時代……。 ほがらかな教室に、突如現れる不条理世界。 なぜ? みんな忘れてしまったの? 生徒に「せっしょうすぎること」を強いる市立小学校の女性教師。「私、ぜったい許さへん」。少女たちが企てた復讐とは……。(「プールがいや」) 同級生の死を知らされた私は、いてもたってもいられず新幹線に飛び乗った。中学時代の先生に、抗議するために。(「数学のこわい先生」) チアフルでブライトな学年一の人気先生――彼女はなぜ豹変したのか。その深層心理を探る。(「ランドセルを持った女」) LINEトークで話した同級生は、かつてはもの静かで百合の花のようだったのだが……。(「うつろい」) 学校の怪談より怖い! 吐き気がするほど“ピュア”に描く、昭和・平成・令和の翳り。 姫野さんの「記憶」は以前何かで紹介しましたが、いわゆる「写真記憶」と言うもので細部にいたるまで鮮明に脳内に焼き付けられているものです。ご本人曰く情景だけでなく匂いや空気感のようなものまで呼び覚まされて、時には記憶の洪水に溺れそうになってしまうことがあると言います。確かに思い出したくない記憶や忘れてしまったほうが楽な記憶というものもありますねえ。姫野さんの特殊能力とも言える「写真記憶」に基づいた子供の心理描写は「子供は無垢である」などと思考停止している者には、ショッキングなほど容赦なくリアルに迫ります。 「純喫茶」や「ツ、イ、ラ、ク」の前半、「サイケ」などもそうでしたが、本書にも隅々に記憶喚起のスイッチがあって読者それぞれの忘れていた記憶を呼び覚ますことでしょう。 本書タイトルの「くらやみ小学校」や装丁から漂う何となく不穏な雰囲気は、まさに学校や教育そして教師というものが内包する「翳り」を表しています。健やかで明るく楽しくというだけではない学校のリアルがあります。 昭和の時代、戦後にできた憲法には書かれていたものの人権や個人の自由などというモノはまだまだ人々に浸透しておらず、まして多様性などという言葉すらなかった高度経済成長期。教師は尊敬の対象であり、教頭や校長ともなれば地域の名士として扱われ結果的に権威を持った存在でした。それが令和となれば、昭和には明るみにでなかったかもしれない教師の不祥事はSNSで拡散し、ニュースでもどんどん取り上げられるようになりました。親からの理不尽なクレームは教師を萎縮させ、過酷な労働環境に見合わぬ報酬に教師のなり手不足が問題になっています。 -----以下姫野さんご本人談----- ◎2020年ごろ、「男のガキが女湯に入ってくるのイヤ」とSNSで発言した女性が非難され、異性湯への子供の年齢制限についてが話題となりました。 各県で、年齢が引き下げられました……。そのころに、いろいろと思うところあり、書いたのが『プールがいや』でした。 ◎須磨の公立小学校で、激辛カレーを無理やり食べさせるなど、教諭による教諭へのいじめ事件がありました。これを追ったものではないですが、こういうことになってしまう人(この事件にかぎらず)の気持ちというのは、どういうことなんだろう…… と書いたものが 『ランドセルを持った女』。
◎パワハラのニュースを、よく新聞で読みますが、あんまりたくさんあって、おぼえられないくらいです。パワハラという言葉がなかった時代、日常でそれをいともかんたんに実行できたのは「先生」で、現在は逆転してしまいました……
と、思う今日このごろに書いたものが、『数学のこわい先生』と『うつろい』 本書を読みながら突然思い出したことがあります。 確か小学4年ぐらいのことだったと思います。掃除の時間に箒を持ってぼんやりしていたら、担任の女の先生にいきなり「なにしてるの、さっさと掃きなさいよ。まったく掃除もできないお坊ちゃんなんだから」と怒られました。ぼーっとしていたのは確かなので、手を動かして掃除しなさいと言われたなら気にもしなかったのですが、「まったく掃除もできないお坊ちゃんなんだから」という部分に何だか棘があって、それこそ60年の時を経て思い出した違和感です。他にも脈絡ない記憶の断片がたくさん思い出すというより浮かんできましたが、例えば人の名前などはほぼ黒塗りの記憶でしかありません。 帯の「なぜ? みんな忘れてしまったの?」の文言に、まったく返す言葉もありませんで、私にとって小学校時代の記憶は断片的で、中学時代はまあまあ細かいエピソードも記憶していて、高校時代はもうどちらかと言えば忘れたい記憶がいっぱい。老年を迎えた現在は趣味のギターの暗譜ができずに難儀するという感じで、なんだか新しいことをインプットするとそれ以上に何かを忘却するという状態です。 そんな私にとって本書は忘れた記憶を取り戻すリハビリのような効果がありました。それに加えてあらためて時代の移り変わりに翻弄される教育の問題点にも気づかされて、ちょっといろいろ検索すると指摘されている膨大な問題に圧倒されたりしています。 |
| 作品紹介目次へ |

