レンタル「不倫」・角川文庫 2001年2月(単行本は96年7月角川書店刊)
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この作品については、ファンサイトなどでいろんな感想が述べられているので、ちょっと変わった方面から攻めたいと思います。上の文章と文体が違ってますけど、こっちの方が楽なので普通に「ですます調」で書きます。
本作の中や、解説でも出てきている「手間」について。つまり恋愛の作法として、セックスや結婚にいたるまでにアプリオリに必須とされている手順のことです。あぁっと、これじゃ霞のおフランスですね。ええっと、要するになんで人々はセックスしたいと思った相手にすぐ「セックスしましょ」と言えないのか。そもそもスカしたデートスポットの存在そのものが、セックスへのジャンプ台のくせに、みんな平気な顔で食事したり酒飲んでるのはなぜ? 手間かかるじゃん。ということですね。 さあ、ここからは危険な領域に入って行きます。本邦初、そのデートスポットの経営者から見た「手間」の実態です。(つまり危険というのは私にとってです)自分で言いきっちゃいますけど、私の店はこの地域では一番高級でお洒落なバーです。客の8割がデートのカップル。都合の良いことに店からの帰り道にはラブホテル。手間の塊、ドロドロの原液みたいな店です。私はこの仕事を始めて17年になりますが、毎日デートのカップルを見ているとわかってきますね。つまり、このカップルがこれからホテルに行くのか。食事を済ませてきたのか、セックスを済ませてきたのか、夫婦なのか、不倫なのか、愛人なのか、遊びなのか、などなど。ヒントはいろんな所にあります。わかりやすい例としては、男の襟首が少し濡れていてカップルで同じ石鹸の匂いさせてたら、馬でもわかります。あるいは男が「マスター、差し入れ」とパック詰めのキウイを持ってきてくれたことがありました。そのパック詰めは、近くのホテルでサービス期間中のお土産に配っていたものでした。猿でもわかります。 あるカップルが店をでる時には、ほとんどフェロモンの香りが目に見えるようでしたが、後に男が私に自慢してました。ヤギだってわかります。まあこれらは手間が報われた例です。実は、こうした目に見える部分でなくはっきりわかることがあるんです。何度かデートして、うまくいったカップルは以後しばらく来なくなるんですね。つまり、もう手間はかけずに済ませるということです。そうして1セット終えたカップルが、また私の店に来る頃には落ち着いて長く付き合うか、終わりが近いかのどちらかなのです。落ち着いて長く付き合おうというカップルは、酒や会話を楽しみ始めますから、店にとっては本当の良いお客様になります。別れが近いカップルですか? しばらくするとお互い別の相手と来たりしますけどね。東京に近いといってもここ「つくば」は田舎で、あまり選択肢が多くありません。私の店にデートで来るということは、酒そのものを目的としてない場合、理由は一つしかありません。なのにそんなことはおくびにも出さず、仕事の話などをして・・・、亀でもわかります。ただし例外もあって、学校でてから一冊も本など読んでないような地元中小企業の社長。私がカクテルを作ってる目の前で「やらせろ」と言ったりしてます。タイプとして好きな人達じゃないんですけど、この部分では男らしくてわかりやすいですね。言われている側の女性はいやじゃないみたいです。男のことが好きかどうかは別にして、誰かに「やりたい」と思われてる自分が好きってことですけど。 え〜、結局何を言いたいのかというとですね。私、長年そうした手間のお手伝いというか場を提供してきて思います。「無駄な手間より真摯な一言」これは男女問わずです。 |
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