直木賞作家『姫野カオルコ』(姫野嘉兵衛)の応援サイト。ディープな読者も初めての方も大歓迎。

すべての女は痩せすぎである・大和出版
2000年3月
え〜、これを読んでいた時、顔のまわりをムーンと小さな虫が飛び廻っていて・・・パシュ・・・。つい反射的に本を閉じて虫を潰してしまいました。150ページ2行目の「チンチン」が「チ虫チン」になってしまいました。

このタイトルですが、私もきっっっっぱりと賛成です。デブ専ってわけじゃないですけど・・・。私の少ない経験を無理矢理思い出してみると、相手は大中小と色々でしたね。で、あんまり体型がうんぬんということは思い出のなかでは重要ではありませんし、時間が経つと顔や体型まで記憶のなかで変化して、ほとんど絶世の美女になっていたりします。さて、そんな記憶を手繰れば(くれぐれも勘違いしないように。沢山ある記憶の中から手繰るのではなく、遠い昔の記憶を必死に手繰ってます)イタリアとスウェーデンのハーフで身長172cm、体重50`(実際は85`)の娘と付き合ったことがあります。ストックホルム、メラーレン湖に浮かぶ船の船室でしばらくいっしょに暮らして。その船はユースホステルとパブを兼ねていて、彼女はそこの従業員。私は長期滞在の客でしたが、時々パブの仕事を手伝ったりしていました。25年前の話です。あの船はまだあるんだろうか・・・しみじみ・・・。

「すべての男はマザコンである」これにも私、きっっっっっぱりと賛成です。一番始末に負えないのは、自分がマザコンであることを自覚していない、男らしい男ってやつですね。私も常々自戒しています。

著者が高校生の時に吉行淳之介に電話する話は、洒落じゃなくて純文学みたいです。著者の少し屈折した無垢と大作家の懐の広い情感が交差して、ああ、ハラハラと散る桜のような趣のある一章です。



すべての女は痩せすぎである・集英社文庫
2004年6月
今回集英社文庫になった本書は上の大和出版のものを全面改稿。文庫版補足として新たに加えられた文も多数あり。確かにエッセイで時事風俗を書くと、文庫化されるまでの3年間で情報としての鮮度がなくなることもあります。姫野エッセイの真骨頂は情報鮮度ではなくロジックにあるので、本書に限らず古さみたいなものは元々感じませんけどね。いつも姫野さんが言っているように洒落たカフェで飲むお茶一杯分なので、未読のかたはにはぜひ買ってくださいな。損はさせません。

さて、本書第二章「田舎にすんでいてはダイエットもできない」の項で、田舎では手に入らなかったというクネッケ。今でこそ高級食材店などのクラッカー売場や、チーズ売場に並べられていますが、当時はたぶん東京でも手に入らなかったかもしれません。で、なんとその頃(と言っても多分姫野さんがクネッケを捜した2年後ぐらい)私はクネッケを常食としていました。プロフィールにあるように、その頃、私はヨーロッパにいましたが、クネッケは特に北欧では普通に売っているもので、種類も豊富でした。クネッケは安く保存が効くという意味で重宝しました。最初食べた時は味のない煎餅みたいな感じで、ウェっと思いましたが、これがしっかり噛んでいるとジワジワと穀類の旨みがでてきてなかなか美味しいものでした。今日本で手に入るものは食べ易いんですが、ちょっとスカスカですね。

えー、相変わらずこれのどこが書評なんだと言われそうですが・・・かまわず脱線します。直木賞候補になった角川書店刊「ツ、イ、ラ、ク」は現在6刷だそうで、単行本の姫野作品としてはダントツの売り上げ。ネット上の書評も概ね好評で嬉しい限りなんですが、まれに「まったく受け付けなかった」という評(評というよりは単なるコメント)を見かけます。で、そう書いている人になぜか主婦が多いんですね。割と本も読むしカルチャー講座なども好きで、ホームページを自分で作って育児日記なども載せているというタイプの主婦。評で共通しているのは、ツイラク冒頭で描写される小学生のドロドロが嫌だという点。どうも子供は純真無垢であってほしいという母親なんですな。あろうことかそうした子供たちのドロドロを最近起こっている児童殺傷事件とリンクさせて、けしからんなどと書いていたりします。子供は大人が思う以上に性的であり、社会性を持っているというのは以前からヒメノ式で主張していることですが、そのたぐいまれな表現にリアリティーを感じるところまでは同じでも、だから面白いという人と、だから嫌だという人がいるということ。この、だから嫌だタイプの人は例の「大日本ふるさと教」信者でもある人が多いようですな。そうそう、子供の写真付きの年賀状をよく知らない人にも出してしまう人でもあるような気がします。たまたま見た日記では御本人がドロドロについていけずに挫折したツイラクを中学生の娘はスラスラ読了してしまったと書いてあって、なんだかなあと思いましたですよ。

すべ痩せ(本書のこと)はなくてツイラクの話になってしまいましたが、私としてはどれか一つの作品という奨めかたや評価ではなく、姫野作品全体をオススメし評価したいというスタンスで・・・と・・・。ちょっと苦しいか。

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