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みんな、どうして結婚してゆくのだろう・集英社文庫
2000年11月(単行本は97年11月大和出版刊)
結婚という前提を疑問なく受け入れている人は、ショックでわなわなと本持つ手は震え、冷や汗タラタラ、動悸息切れ、目眩に求心、痔にボラギノール、ドモホルンリンクルの再春館、戸惑いをおぼえることでしょう。

免疫のない方がヒメノウィルスに侵されると、しばらく微熱が続いて脱力感に襲われます。5年〜10年の潜伏期間を経て、発病した場合・・・治療法なし・・・ヒメノ式という難病です。ただし多少の孤独感と不安感以外は一般人と区別はつかないため、罹患者数は全国で5〜6千名と推定されています。患者は発覚するといわれのない差別、誹謗中傷、をうけることもあって病院(あるいは医者)を嫌う傾向あり。感染元は全国のこころある書店。ベストセラーばかり置く書店は消毒済み。

結婚関連産業は数兆円規模のマーケットを誇り、地元つくばのローカル情報誌などでも再三ブライダル特集をやってます。・・・何で 興味のない私にしてみると、気味悪いことです。まあとっくに友人たちはかたがついて、しがらみのあるつきあいもない身。この先結婚式に出席するのは甥や姪の時までないとは思いますけど。この本でも引き出物の話がでてきますが、田舎の引き出物は包んだ時に大きくてかさばるものが良いとされています。私もあれこれもらったはずですが、記憶にも残ってないということは・・・多分捨てました。家電リサイクル法じゃなく引き出物禁止法でも作ると、よりエコロジカルです。しかしみんな無自覚に恋愛や結婚至上主義になってたりするのは、関連企業や国家の陰謀ではないか。ここはひとつヒメノウイルスを地下鉄かなんかで撒いて・・・。


ハイド版書評
「昼下がりの喫茶店」

私は「みんな、どうして結婚してゆくのだろう」というタイトルの本を手に取ってレジに向かった。すこしうつむいたまま支払いを済ませ、近くの喫茶店に入って、本と同じ値段の紅茶を飲みながら、ページをめくり始めた。

結婚したくて、参考にしようとこの本を読んでいるわけではない。なぜなら、過去に好きな人といっしょに暮らし、結婚生活と同じ経験をしたことがあるから。結婚の意味や歴史を知りたくて、この本を読んでいるわけではない。なぜなら、意味や歴史は時とともに変わるものだから。結婚という制度を否定したくて、この本を読んでいるわけではない。なぜなら、制度は紙の上の約束事でしかないと思っているから。

ページを繰る手を休め、紅茶を飲む。店内のどこかから、カップルの笑い声。ガラス窓からは春の陽射し。

私は自分が普通でないことを知っている。なぜなら、職場の同期は自分を除いて全て既婚者だから。私は自分が孤独であることを知っている。なぜなら、文字どおり一人暮らしだから。私は恋愛が必ずしも結婚に結びつかないことを知っている。なぜなら、恋愛と結婚は違うものだから。

みんな当たり前のように結婚してゆく・・・。

私は本を読み終えて、店を出た。少し元気になった気がする。少し勇気をもらった気がする。少し肩の荷が降りた気がする。春の午後。私は45才、独身、・・・男。

本書を手に取るのは、このような男かも知れないし、17才の女子高生かも知れない。共感する人もいれば、そうでない人もいるだろう。怒る人もいれば、笑う人もいるだろう。「恋愛や結婚は理屈じゃない」と反発する人が多いかも知れない。これは自虐的とも思える著者の告白と疑義の素直な表現であって、いわゆる理論武装したフェミニズムとは一線を画す作品。

少なくとも、本書から元気や勇気を与えられる者がいるなら、それは作品が生きていることの証明。本書は生きているがゆえに、切れば血が出るし痛みも感じるけれど、それこそ理屈じゃない癒しの処方箋を秘めている。ここまで書いて急にくだけた文体になっちゃいますけど、別に難しい本じゃなくてタッハッハと笑いながら読めます。著者の作品が初めての方には、「ブスのくせに! 新潮社文庫」や「蕎麦屋の恋、イースト・プレス」もおすすめ。えっ? 冒頭の45才独身男はお前かって? いやそれはその・・・、ああ、みんなどうして結婚してゆくのだろうね。

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