直木賞作家『姫野カオルコ』(姫野嘉兵衛)の応援サイト。ディープな読者も初めての方も大歓迎。

結婚は人生の墓場か?(旧題/ああ、正妻)集英社文庫
2010年5月
実質的に文庫書き下ろしということで、読者としては新刊を読む感じで二度楽しんでいます。ただジキル個人的には結婚というものが、あまり近しいものではないので(もちろん現実が独身だからということで)読みながら感じることは既婚者とは違うかと思われます。私はどちらかというとこの物語をホラー風味の喜劇として読みました。

まず、この本のBGMには「ドナドナ」と「あなた」を流しましょう。音源がない方は「エクソシスト」と「オーメン」のサントラでも可(どういう代替案だ)。そして読みながら「????」と思ったときなどに(作者はブレードランナー症と呼ぶ)ぜひ「いま変なものが聞こえた」とつぶやいてみましょう。このフレーズは夫である小早川が妻、雪穂の論理性の欠如した不条理な言動に対して感じることでありますが、読者はいつのまにか夫の行動や反応にもブレードランナー症を見つけるようになります。

雪穂の望む家族像の気味悪さは、基本的に自分と違う境遇の者や状況に対する想像力の欠如というところからきているように思われますが、これは世に溢れる様々な問題にも当てはまります。ほんのたまにですが、結婚している友人たち(もうすでに孫もいる)の家庭の嘆きを聞きながら、私は「だって自分で選んだ生活じゃないか」という言葉を飲み込みます。そして私はひとりでいることの悲しみや孤独を友人たちに嘆くまいと思うのです。だって自分で選んだ生活ですから。そういうのをお互い自由に言い合ってこその友人だという意見もあるかもしれませんが、やはり同じような境遇の者同士で話すのとは違うんですよねえ。

ところで、316pの最後の四文字が「」空白になっているのですが、これは単なるミスプリントなのでしょうね。空白のあとに続くのが・・・ぞっとした。・・・という文章なのでここ「」に何と言う言葉が入るのか気になって気になって。

これを書いてからあの「」は、わざと空白になっていることを知りました。そうかそうか・・・ってことは、四文字だから「○○○○」や「○○○○」か?・・・いや、もしかして「変態○○」とか「淫○獣○」とかかな・・・


ああ正妻・集英社
2007年3月
それにしても本書の主人公である夫「小早川正人」の情けなさは最初のうちこそ同情もしますが、だんだん腹が立ってきますね。それに比べて妻「雪穂」の非論理性でもって物事を自分の都合良いほうに無理やりでも持っていく技術?には恐ろしさを通り越して爽快感すら感じます。・・・んなわけないか。まあ日常では論理的に正しいことが何の意味もないってのはよくあることです。正しい者より声のでかい者が利を得るのが、憲法で平等を謳う国の現実。

しかし瓶野比織子(カメノヒオルコ)だもんなぁ。せめて小陽目織香(コヒノメオルカ)ぐらいにしてほしかった・・・。最初に出てきたのが、こういう名前のアナグラムだったので、その後も固有名詞で怪しそうなのがあるとあれこれ言葉とひっくり返したりして遊んでしまいました。ファンには作品名のパロディだけでも笑えるネタです。

雪穂は強烈なキャラですがコミック的なデフォルメとしてはある意味正統派。それに比べて小早川というのは、最初のうちは「あー、こういう気弱なタイプ、いるいる」と笑って読んでいたのに、だんだん腹がたってき「こばやかわー、そこは違うだろ」と突っ込みを入れたくなります。そのうち「???ちょっと・・・不・気・味・かも」と思い始めて、すっかり作者の術中に。

幸か不幸か私は縁がなくて結婚していませんし、今更いい年ですから結婚しようとも思っていません。実を言うと私は積極的に結婚したいと思ったことがないのです。ってことで、独り身の結婚にあまり興味がない私などが読むのとブラックコメディーですが、既婚者にとってはすごくリアリティーのあるホラーだったりするかもしれません。

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