愛はひとり(集英社文庫)・・・「夢みるシャンソン人形」より抜粋・・・クライスラーの「愛の悲しみ」。バイオリン編曲のものがなくてピアノです。画像はもちろんライラック。クライスラーには「愛の喜び」というのもあって、これはこれで良い曲なのですが・・・。しかし高志と洋子の物語は頭の中でエロティックに映像化されますねえ。エンディングに使ったのはもちろんあの「わ・た・しは夢見るシャンソン人形♪」
目が醒める。
ひとりである。
のろのろと毛布から手をのばし、多機能電話機の#ボタンを押す。
ゴゼン ジュウジ ヨンジュウニフン デス。
合成された彼女の声は告げる。
ひとりである。
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高志。
あれは、いつだったか。
ライラックが咲いていたから初夏のことだろう。
悪事をそそのかしにくるようなライラックの薫りに
むせそうなアトリエだった。
床に紫色のはなびらが埃といっしょに散っていた夕刻。
高志。
あなたの心は私ではない女だけに向けられているのを
私は知っていた。
そして一心にその女だけを見つめる残酷さがよけいに
私を魅了してやまなかった。
ライラックの散るアトリエで
あなたはバイオリンを弾いてくれた。
クライスラーの「愛のかなしみ」。
高志。
愛しても愛しても愛しても、かなうことはない。
どんなに私が愛しても愛しても、高志。
あなたに愛がとどくことはない。
これほど私が愛しても、あなたは私を見ない。
私の存在すら知らない。
なぜならあなたは
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セルジュ・ゲンズブール、死んじゃった。