ひと呼んでミツコ

集英社文庫・・・「ひと呼んでミツコ」より抜粋・・・BGMはサウンド・オブ・ミュージックから「I HAVE CONFIDENCE」。つまり「私は自信がある」ちゅうことですね。世間には大きくて強く、根拠はないのに微動だにしない自信を持っている人が少なくないんですね。私が思うに、これは自信とか言うよりもただ単に「心臓に毛が生えている」あるいは「面の皮が象皮」いや「世界は自分を中心に回っている」それとも・・・ああ、うっとうしい。


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「うるさいっ!」

わたしは大声を吐いた。

おとなしくて無口、とずっと通信簿に書かれ続けてきたわたし。

声が小さく聞き取りにくい、とも書かれ続けてきたわたし。

もっと自分の思ったことをはっきり言いましょう、

とも書かれ続けてきたわたし。

通信簿にそう書いた歴代の担任先生。

小1、2の渡辺礼子先生。

小3、4の須田憲治先生。

小5の森谷恵司先生、

小6の広瀬幸雄先生だけは“はきはきしている”と

書いてくださったのでとばして、

中1の久田悟先生、中2の古川弥生子先生、

中3の安田茂則先生、

わたしはあなたがたのアドバイスに従わん。

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――よく言うよ~!――

ひごろ、よく使うことばだ。

〈あなたってモテるでしょ〉

〈よく言うよ!〉

〈あのアイドル歌手、噂の俳優とはデートしたこともないってインタビューで言ってたよ〉

〈よく言うよ~!〉

いまほど切実にこのことばを使いたいと思ったことはない。

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

――よっく言うよ~!――

だが、

「・・・・・・・・・・・・・・・」

わたしの口からことばは出なかった。よっく言うよ~!と言われて、

なにが、よっく言うのか、このふたりにわかるだろうか。

六甲山ロープウェイのケーブルと同直径の神経線が一本身体を通っている。

大嵐が吹き荒れ雷が落ちようともケーブルは微動だにしない。

自己に対する自信のケーブル。

ゆるぎない自信のケーブル。ゆるぎないケーブルの上で

視点も決して動くことはない。

ケーブルの心に影さすことは決して決して、ない。